株式会社 風

たとえば、調査会社の人が市場調査と称して、「この地域の20代の女性500人にアンケートを取った結果、軽自動車を買うなら***機能が欲しい、という項目にチェックをした割合が80%を超えています。御社の次期軽自動車には、***を装備すべきです。」なんてことを言ったりします。
ちょっと例えは悪いですが、「8割の女性ががあなたの会社の軽自動車を買うの?」ということです。

例えば、1割しかシェアがない軽自動車メーカーが8割の人の要望を聞いて、誰にでもそこそこ良い印象を与える製品を作ったとします。おそらく、軽自動車業界のリーダー(たとえば、3割のシェアを持っている)も、できるだけシェアを拡大したいので、同様の方向性の製品を開発しているでしょう。すると、既存顧客の多くは、シェアの少ない方の製品には乗り換えませんし、新規の顧客もやはり既存客と同じ割合かそれ以上で、ブランド価値の高い業界リーダーの製品を選びます。
そうなると、1割しかシェアがない会社は、ブランドの差の分だけ安くするか、サービスに差を付けるほかないのですが、どちらにしても利益を圧迫していきます。これではもう、八方ふさがり一直線です。

それよりも、1割でもいいから熱狂的なファンを作ることが大切です。
熱狂的なファンは、間違いなく、家族や友人に自分の車の自慢をします。すると、少しずつファンは増えていきます。

ところが、8割の見込み顧客の声を聞いていると、当たり障りのない、変わり映えしない商品になってしまいます。購入した顧客も、決して自慢話はしません。そうなれば、あとは上の例のように価格競争に陥るのが関の山。

お菓子などのように、大量生産ができて誰にでも気軽に買えるものであればいざ知らず、たとえば、50世帯しか入れないマンションを建てるのに、その地域の1000人の人からアンケートを取り、9割の人の意見に従うのはナンセンスです。
マンションなどのような販売数が限られている商品の場合は、なおさら顧客ニーズの幅よりもニーズの深さ(特定の人には決定的に必要になるモノや機能)に耳を傾けるべきでしょう。ウォンツであれば、みんなが欲しがるものより、マニアが欲しがるモノです。
その方が競争も少なく、かつ、単価を高く設定できます。

つまり、業界でトップではない企業や、販売数が少ない商品では、少数のこだわりを持った見込顧客の声を聞きましょう、ということです。
(上記の例は、すべて架空です)

2009年4月、ついにS2000を注文しました(納車は2009年8月見込)。

私は、2002年頃からホンダのスポーツカーS2000を手に入れたいと熱望していました。ここ数年、私にとってS2000は、欲しいもの先頭を文字通り突っ走る存在でした。
「そんなに欲しいなら、さっさと買えばいいじゃん」
まことに、ごもっとも。

しかしながら、S2000は、定員二人で実用性に乏しく、価格は400万前後と高め、しかも、家族で乗れる車はすでに一台持っている状態。
「買う理由がない」のです。

ところが、状況が変わったのが2008年の年末ごろだったでしょうか。
ある人から、
「あなたが欲しがっていたS2000、2009年6月で生産終了になるらしいよ」
というお知らせをいただきました。
そして、ホンダのディーラーの友人に訪ねたら、「2009年4月6日が発注期限です」とのこと。

それから、4月に近づくにつれ、「早くS2000を注文しなければ一生(新車では)手に入らない」という思いは日増しに高まっていきました。
そしてついに、4月6日ギリギリで、注文してしまったのです。
今は、納車の日が待ち遠しくて仕方がありません。

さて、私ごとでなんですが、「なぜ私は欲しいS2000を7年も買わなかったのでしょうか?」そして、「なぜ生産終了ギリギリになって、注文に踏み切ったのでしょうか?」ニーズとウォンツの視点から考えてみましょう。

私は7年も前から「S2000が欲しい」と思っていたわけですから、当然、私にとってS2000はウォンツが超高い「魅力的な商品」と言えるでしょう。しかしながら、「買う理由がない」=「買わなければいけない、訳ではない」ので、ニーズはとても低いとも言えます。このため、7年間も買わずに過ごしてしまっています。
そこに、「生産終了のお知らせ」。
これにより、「S2000を4月までに注文しないと、一生(新車では)手に入らなくなる」ということになり、「買うという行動を取る必要性」が高まっています。
ここで注意したいのは、商品自体の購入の必要性である「商品のニーズ」が高まっているわけではない、と言うところです。
つまり、ニーズが低い商品でも「買うという行動を取る必要性」=「購入のニーズ」を高めることで、顧客に行動を起こさせることができるのです。

整理すると、
「ニーズは低いがウォンツが高い商品」の見込み顧客に対して、「行動のニーズを高めるメッセージを投げかける」ことにより、購入に踏み切らせている、ということです。
この例では、「行動のニーズを高めるメッセージ」がたまたま「生産終了」になっていますが、もちろん他にも期間限定のセールや魅力的な景品、(S2000には合わないと思いますが)他のニーズの高い商品とのセット販売なども有効でしょう。

「商品が売れない」と悩まれている方、自分の商品のニーズ、ウォンツを分析して、それらを高めるメッセージを見込み顧客に投げかけてみましょう。私のような「買いたいけど買う理由がない」人や、「買わなければいけないんだけど、買いたくない」と思っている人を購入に走らせることがきっとできます。